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FRB(アメリカ連邦準備制度)の赤字(2025Q2まで)

以前「 FRB(アメリカ連邦準備制度)の赤字 」について 2025Q2 まで更新されたので、グラフを延長する。データ、出所などの説明は以前の記事を参照。 FRBの利息収入( 青い破線 )は2022からほぼ同水準で変動しているが、利息費用( 緑二重線 )が2023Q3から徐々に減少している。それ以外に債権(国債など)と債務(当座預金)の額を考慮する必要があるが、ここでは省略している。財務省への送金前の純所得( 赤い線 )の赤字はかなり縮小してきた。2025Q2も前期比べてわずかだか赤字は縮小し、銀行業資本として正常な状態に戻りつつあるといえる。 なお、用語の対応は、 総利息収入Total interest income、 総利息費用 Total interest expense 財務省への送金前の純所得 Reserve Bank and consolidated variable interest entities net loss before providing remittances to the Treasury 損失の場合は、 Reserve Bank and consolidated variable interest entity net loss before providing remittances to the Treasury   準備預金への利子率 Interest rate on reserve balances (IORB rate)

小幡「マルクス経済学を組み立てる」に出てくるスラッファの説の確認

 

 小幡「マルクス経済学を組み立てる」にスラッファ『商品による商品の生産』の話が出てくる。スラッファを最初から読むのも大変なので、小幡『経済原論』の数値例にそくしてマルクス経済学原理論とスラッファの違いを簡単に紹介しておく。 

 もともとの数値例は次の通りだが、以下①からはこの数値例とは異なる場合がある。

   小麦6kg + 鉄4kg + 労働6時間 = 小麦20kg

   小麦8kg + 鉄4kg + 労働4時間 = 鉄20kg

   小麦5kg,  鉄5kg → 労働10時間

小麦1kgの価格と鉄1kgの価格それぞれpp、時間あたり賃金をωと表記する。


①スラッファ:剰余(surplus)のない体系

   小麦6kg + 鉄4kg → 小麦14kg

   小麦8kg + 鉄4kg → 鉄8kg

生産手段の合計と総産出物の合計が等しい。2つ目の式の左辺は1つ目の式の両辺と2つ目の式の両辺から算出されるので2つの式は独立ではない。

ここで、労働者の賃金は生活物資に換算して左辺の中に入り込んでいる。労働者の賃金を生活物資に換算するのは、原理論でも普通に行われる。

生産価格で表現すると

 6p  4p = 14p

 8p  4p  = 8p


②スラッファ:剰余(余剰)のある体系

 利潤率をrとすると(このrは、『原論』でいえば、生産手段に対する純生産物の率)

6p 4p)(1r   20p

 8p 4p)(1r   20p

この体系では賃金がどこにあるのかあいまいである。ただし①から③への過渡と思えばさほど違和感はない。 


③スラッファ:賃金を含む体系

6p 4p)(1r)+ 6ω 20p

 8p 4p)(1r)+ 4ω 20p

ここでは、社会的な純生産物が労働者と資本家に分配される。労働者は〔ω×雇用労働時間〕、資本家は〔生産手段×r〕を取得。

 

④マルクス経済学の生産価格と一般的利潤率

マルクス経済学は賃金に利潤率が掛けられるので、スラッファとは大きく異なる。

6p 4p 6ω)(1r 20p

 8p 4p 4ω)(1r 20p

賃金を以下のように生活物資に換算する。

    5p  5p =10ω

上の2つの式は

(9p  7p)(1r  20p

 10p  6p)(1r  20p

 ただし、この換算はできないだろう、というのが、スラッファと小幡「マルクス経済学を組み立てる」に共通した主張。


⑤スラッファに話を戻して、

③の2つの式を合計すると

14p 8p)(1r)+ 10ω 20p 20p

左辺の生産手段を右辺に移項すると、

14p 8p)×r 10ω 20p 20p 14p 8p (1)

右辺は粗生産物から生産手段を引いた純生産物の価格表示になる。生産価格は相対的な価格比はわかるが、価格水準はわからないので、右辺の純生産物が1になるように価格水準を定めるとする。つまり

20p  20p  14p  8p  1  …(2

また10ωの1010時間の意味だが、時間の単位も変更可能である。(1)と(2)式から、r = 0 のとき、10ω = 1 になるので、10ω = w とし、wは0から1まで変化するものとする。

そうすると(1)式は、

14p 8p)×r w 1

となる。wを右辺に移項しrの係数で両辺を割ると、

r  {1/14p 8p1 w)  …(3

ここで、もし賃金 w=0と仮定すると、純生産物がすべて資本に取得される。 

右辺の{1/14p 8p}は、純生産物を生産手段で割ったものなので、これは賃金が0のときの利潤率である。これを極大利潤率という。この極大利潤率をRとして、(3)式の表現を変えると、

r = R1 - w) 

Rは客観的な技術で決まるので、rとwは一次関数の関係になる。賃金は資本の生産活動で事前に支出される前貸コストではなく、事後に純生産物が賃金と利潤に分けられることになる。

 

マルクス経済学とスラッファとの違い:まとめ

マルクス経済学では賃金はコストになるが、スラッファではまず純生産物が決まり、それを利潤率と賃金で分配する。

マルクスは賃金を必要最低限の生活資料の価値として限定したが、スラッファは賃金を【最低限の水準+剰余生産物の分け前】とする。賃金の額は先には決まらない。先に利子率が決まりそれに応じて利潤率が決まる。利潤が決まった後の残余として賃金が決まる、ということになるらしい。利子率がどのように決まるかは不明のようである。

小幡「マルクス経済学を組み立てる」では、賃金はコストという点ではマルクス(古典派も同じだが)と同じで、賃金水準が生活資料の最低限に限定はされないという点でマルクスとは異なり、スラッファと似ている。

③のように賃金を資本利潤率計算の外に出す、つまり賃金を資本の生産活動からの収入が分配される部分とするのは、マルクスはもちろん、リカードなどの古典派とも大きく異なる。このあたりのことはいろいろ論じられている。たとえば、スラッファの『商品による商品の生産』わかりやすい解説本『スラッファの謎を楽しむ - 『商品による商品の生産』を読むために』(片桐幸雄)の97頁から書いてある。

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