金融恐慌と最後の貸し手機能における中央銀行の利益

 


はじめに

「貨幣供給と貨幣生成論における内生と外生の二重構造について」の内容を研究会で報告したが、「B.銀行業資本としての中央銀行」への異論が多かった。報告の趣旨は、そのブログ記事にあるように中央銀行は公共的な政策を追求するにしても銀行業資本の枠組みでなければならないことが主旨であった。そのうえで、銀行業資本は最大限の利潤を追求するにしても、利潤率計算上の期間は長短に違いがあるし、そもそも銀行業資本というのは業務活動として自己の債務を流通させる事である。これらのことを考えれば中央銀行は、民間の市中銀行のように短期的に最大限の利潤を追求する、というわけではない。

ここでは最後の貸し手機能の際の中央銀行の利益の状況を実際のデータと、FRB議長のバーナンキの説明をあげておく。

. 最後の貸し手機能の際の中央銀行の利益

.1 最近のイングランド銀行

まずわかりやすいリーマンショックの際のイングランド銀行(BOE)の利益について。



BOEはイングランド銀行、MFIMonetary financial institution は銀行、引当は貸倒引当。銀行は右目盛りで、左右のスケールが50倍違う。BOEの会計は翌年の2月占めなので、例えば1980年なら、1981年の2月までの1年間である。

データはBOEAnnual Report、銀行はBank of England | Database 引当前がGFAB5RJ – Annual、引当後がGFAB5RL – Annual  

 グレーは不況で、景気転換点はECRIのデータによる、2009年までのものが、ここからダウンロード可能。

 中央銀行(BOE)は金融危機の際の最後の貸し手機能で大きな利益を上げていることがわかる。もちろんこれは短期的な利益を追求しているわけではなく金融システムの安定を図るための行為がハイリターンの与信となり、結果として大きな利益を上げたことになる。このあたりの感覚は、後述するアメリカの例としてバーナンキの話でよくわかる。

.2 最近のアメリカFRB





 データは、FRBAnnual ReportNet income before providing for remittances to the Treasury2016年のAnnual Reportp.326191415年から一括してある。不況の判断はNBERによる。

市中銀行はFDICBankFind Suite: Find Annual Historical Bank DataNet Income (NETINC)

古いところがよくわからないので、GDPのトレンド線(HPフィルター。過去の記事参照)で割ってみる。




FRBの利益は、リーマンショック後に利益が上昇していることがわかる。一般的には不況の直前に金融逼迫が起こりやすいので、そのときにFRBと商業銀行で利益の変化が逆相関になりやすい。

長期的な傾向としては、1980年代初頭までは金利上昇による利益の増加傾向、リーマンショック後の不況対策としてのLarge Scale Asset Purcahse: LSAP)による資産増加による利益の増加傾向などもあるだろうがここでは省略する。(念のためだが、最後の貸し手と不況対策は異なる)

.3 19世紀のイングランド銀行

イングランド銀行の半年毎の利益のグラフ。



データはThe Bank of England as lender of last resort: new historical evidence from daily transactional data

利益は2月と8月の半年毎なので、恐慌の起きた月の次の2月または8月に恐慌の縦棒を入れている。

恐慌の時に最後の貸し手をして、局所的に最大の利益をあげていることがわかる。もちろんこれは、金融システム不安の解消のための最後の貸し手機能の結果として利益の局所的最大化である。

 

. FRB元議長のBernankeの話

Bernanke [2013] The Federal Reserve and the Financial Crisis, p.99  (訳書『連邦準備制度と金融危機―バーナンキFRB理事会議長による大学生向け講義録』)

リーマンショックの時のFRBの対応は、古典的な最後の貸し手機能だったことがわかる。もちろん金融市場の変化によって、中央銀行の具体的な方策は19世紀とは異なるが、高い利率、安全な与信、結果として高い利益という基本は古典的な形と同じだとわかる。(下線部は引用者による)

 

Let me say a few words about the land of last resort programs. As I have already argued at some length, the programs did appear to be effective. they arrested to runs on the various types of the financial institutions and they restored financial market functioning. The programs, which were instituted primarily in fall of 2008, were mostly phased out by the March 2010. And they were phased out really in two different ways.

 First, some of the programs just come came to end. But more often, in making loans to provide liquidity to financial institutions, the Fed would charge an interest rate that was lower than the crisis rate, the panic rate, but higher than the normal interest rate. And so as the financial systems calmed down and rates came back down to more normal levels, it was no longer economically and financially attractive for the institution to keep borrowing from the Fed, and so the program wound down quite naturally. We did not have to shut them down; they basically disappeared on their own.

 The financial risk that Federal Reserve took in the lender of last resort programs were quite minimal. As I have described, lending was mostly short time. It was backed by the collateral in the most cases. In December 2010, we reported to Congress all the detail involved in the twenty-one thousand loans that the Fed made during the crisis. Of the twenty-one thousand loans, zero defaulted. Every single one was paid back. So even though the objective of the program was stabilizing the system rather than profit making, the taxpayers did come out ahead on those loans.

(終わり)

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