多数の価値表現による商品の集積:小幡[2023]を踏まえたうえでの岩田[2022]の解説

 


岩田[2022]「商品集積体と債権化から信用貨幣を導出する新しい価値形態論:orの関係で結びついた商品集積体を基礎として」『季刊経済理論』59(1) 2022年4月 を、小幡[2023]を踏まえたうえで、簡単に図解する。

まず、1着の上着を欲するリンネル所有者が簡単な価値表現をする。


リンネル20メートル = 1着の上着


これは宇野学派の典型的な方法である。

次に、拡大された価値形態における間接交換の方法である。間接交換の方法は以前からあるが、小幡『経済原論』で特に強調されている。そこで方法をさらに集合概念で表現すると以下のようになる。

上着所有者がリンネルを欲しなければ、上着所有者が欲する商品と、リンネルを欲する主体の所有する商品が共通すればその商品が間接交換の手段になりうる。それぞれ所有者や、欲する商品が複数であれば、集合で考えることができる。つまりの下の図1のようになり、間接交換となるのは2つの集合の共通集合である。

図1


上着を欲するリンネル所有者による間接交換の手段が次のように示されたとする。
     
          
                                                間接交換の手段

   相対的価値形態       茶4 kg       等価形態
   リンネル20メートル =    塩0.5 kg   = 1着の上衣
                 小麦1kg
                 …………
   
さらに商品㋑を欲する、商品㋐の所有者による間接交換の手段が次のように示されたとする。ただし数量は省略する。

                茶         
   商品㋐        =      銅        = 商品㋑
                コーヒー
                …………
同様の組み合わせが次のように示されたとする。


               鉄         
   商品㋒        =      …………       = 商品㋓
                …………
                

               鉄         
   商品㋔        =      …………       = 商品㋕
                …………
               

               鉄         
   商品㋖        =      …………       = 商品㋗
                …………


リンネル所有者と商品㋐所有者は間接交換の手段としてともに鉄を挙げているので、鉄を間接交換の手段に用いるとする。上記のリンネル、㋐、㋒、㋔、㋖所有者の価値表現をまとめると次の表1になる。

表1 

相対的価値形態

間接交換の手段

等価形態

リンネル

上着

砂糖


 これまでの価値形態論では、間接交換の手段として多く主体から利用される商品が一般的等価物になる。
 しかし、ここで複数種の商品を所有する主体を考えてみる。{茶、鉄、砂糖}を所有する主体Xがいれば、Xのもとに間接交換の媒介が集中する。このことを図解する。
まずリンネル所有者は茶を媒介物として上着を入手する価値表現をする。そうすると次の図2になる
図2

この価値表現が交換を求める形態であれば、リンネル所有者が所有するリンネルのうち、上着1着の価値に相当する部分がXのもとに移動すると想定される。

続いて商品㋐の所有者が商品㋑を欲して、茶を間接交換の手段にする場合は次の図3になる。

図3


さらに、表1のように、商品㋒の所有者が商品㋓を欲して、鉄を間接交換の手段にし、続けて商品㋔の所有者、商品㋖の所有者の価値表現を追加すると、最終的に表1の関係は次の図4になる。

図4

この図4から以下の諸点がわかる。
1.Xはもともと{茶、鉄、砂糖}の商品集合を所有していたが、間接交換の媒介となることで、商品㋐㋒㋔㋖も集中することになる。
2.一般的等価物を茶、鉄、砂糖となるシステムが分裂している。これは小幡[2023]の「統一問題」と同じ形である。岩田[2022]ではXが{茶、鉄、砂糖}すべてを所有し、Xの所有権が「統一問題」を緩和している。同時に「代表問題」も、サイクル成分がすべてXの所有のもとにあれば、Xの所有権が解消する。
3.しかし、この図4だけでは分裂した各システム間の交換比率が不明である。最も容易な解決策は、Xが{茶、鉄、砂糖}の相互の交換比率を示すことである。しかしこれはXが万能すぎる。各商品所有者の主観的な行動が貨幣(一般的等価物)や価値関係を生み出さなければならない。
4.この図4では相対的価値形態の商品の所有者はそれぞれ、自分の商品を1つの媒介物でしか価値表現していない。この部分だけを取り出せば「簡単な価値形態」である。しかしここで「拡大された価値形態」として、相対的価値形態の商品の所有者が2つ以上の媒介物、例えば茶と鉄というように価値表現し、他の主体も同様にすれば、システム間の分裂は解消する。ただしこの解消方法では、価値表現の集中点としての貨幣の性質をあいまいにする問題が生じる。この点は以前の記事のTable4, Figure8と関連する説明を参照
5.相対的価値形態の商品所有者にとっては、間接交換の手段の現物は不要だから、債権だけでよい(これは小幡『経済原論』の方法)。この債権化の方向をXにも拡張すると、Xにとっても代わりに受け取る商品が直接的欲求の対象でなければ現物でなくても債権でよい。そうすると上記の図4の矢印はすべて債権を示す。これは「直接間接問題」そのものではないか、間接型の拡張に相当する。


この先の論点は岩田[2022]にある通りなので、今回の記事はここまでとする。







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