経済学原理論における「市場機構」と「市場組織」

 

 私の紀要論文が発刊されたのでお知らせ。

「経済学原理論における『市場機構』と『市場組織』 流通過程の不確定性と利潤率均等化の観点から」東京経大学会誌(経済学)309

  不特定多数の経済主体間でスポット的、必要量の売買が行われる市場が、資本主義的市場の原則となるが、その中で特定の経済主体間で、継続的、あるいは当面の必要以上の量で売買することで流通過程の不確定性を制御する「組織化」の議論が進んできた。しかしそうした議論は、…ということも考えられる、とアドホックにいろいろな行動様式が挙げられたり、逆に、あらかじめ商業信用と銀行信用や、商業資本の存在が前提にされていたりしているように見える。原理論の専門家からみれば、適切な記述方法なのかもしれないが、私には論理的展開が散漫にみえる。とくに字数制限も査読もない論文はその傾向が強くなるようにみえる。

そこで、もっと論理的に体系的に展開できないだろうか、というのがこの論文の動機である。複数の行動様式がある場合は、上位概念における共通性を論じたうえで、下位概念の多型化の根拠を論じる、といった方法である。

たとえば、産業資本だけが存在する市場では、他の産業資本の間には、加工系列の上流からの購買、下流への販売、同部門の他の資本との販売の競合という3つの関係が論理的にありうる。(なお、流通過程以外の関係の仕方としては株式資本がある。株式資本が産業資本間の関係として論じられるべきことはこのブログの以前の記事「さくら原論研究会『これらかの経済原論』「株式資本」研究会」を参照)

論理的な市場機構の全体像を図解すると以下のようになる。中心の資本D1から見た場合、等位になる複数の市場機構の存在が原理論の論理的展開となる。

11頁の図を補充)

 これまでの原理論では、商業信用から銀行信用へと論じる場合、産業資本間の商業信用が基礎となる。それは正しい展開だが、商業資本については、いきなり商業資本の完成形が現れる。

商業資本も産業資本間の販売代位が基礎となることを示すのが上記の図である。この図のように考えると、産業資本に起こりうる行動様式を論理的・体系的に挙げて、その後、理論的に検討することが可能になる。

 また、組織化の具体的方法として、これまでの「組織化」の議論では、継続的取引や、準備金が不足した場合に商業信用を利用できるという約束といったことが挙げられてきた。この論文では前者を「販売確定型」、後者を「オプション型」とした。その二つの方法の違いを生み出すのは、産業資本が原則的に流通過程を他の資本に押し出すのか、原則的に担いつつ過剰な変動を他の資本に押し出すのか、という違いである。  

 

 

 

D1による買取

D1による販売

産業資本が原則的に流通過程を

 

押し出す

販売確定型

購買代位

販売確定

 

担う

オプション型

商業信用で買うオプション

先行買取をさせるオプション

27頁の図を補充)


 数式表現は小幡『経済原論』の商業資本の利潤率の計算例(問題
134)と銀行業資本の利潤率の例(238頁と問題146)の方法を使い2つの資本間の関係に絞ったうえで、発展させて表現してみた。

 図式化することでいろいろなニュアンスが消えると言われるかもしれない。しかしながい埋もれていた点を明確に引き出して、議論の対象として引き出しておくことの方が有益だろう。


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