「変容論的アプローチの適用」の段階論と現代資本主義論への適用-8:銀行間組織

 



銀行間組織

銀行間組織はさまざまな議論があるので本稿では小幡『経済原論』での視角に限る。その場合、銀行間の支払い準備の問題から銀行間組織が生じる。銀行は他行への支払い請求に対して準備金を持つが、他行すべてに対してそれぞれ預金を置くという水平的な銀行間組織と、一つの銀行が上位に立ち、他のすべての銀行がその銀行に預金を持つという垂直的な銀行間組織がある。ここで「預金」としたが、銀行券でもよく、一般化すれば銀行の債務としての信用貨幣である。

 

銀行間組織の変容

多態化

複数の上位銀行による手形交換所などを通じた組織

中央銀行を頂点とする階層的な組織

変容

水平的な銀行間組織

垂直的な銀行間組織

展開

銀行信用→銀行間取引→銀行間組織→長期信用・株式資本

 

ところで「垂直的な銀行間組織」と「中央銀行」とは意味が異なる。中央銀行とは一般に「銀行の銀行」「発券銀行」「政府の銀行」の3つの役割を果す銀行だが、垂直的な銀行間組織はその中でも「銀行の銀行」の役割のみである。「政府」は経済主体の1つであり、商品所有者の個別の利得追求活動から展開される原理論では、政府に特別の意味を付与するのはできるだけ回避すべきだろう。また、「発券」についても現在の原理論は銀行券も預金も銀行の債務としての信用貨幣という同じ枠組みになる。そのため発券銀行は特別なものではない。つまり開口部は中央銀行の有無ではなく、銀行間組織が水平か垂直か、である。中央銀行は、変容としての垂直的な銀行間組織が具体化する場合の多態化の一つとなる。

銀行間の取引は、①他行に置いた預金は、他行への支払い請求に用いられる、②準備金が不足した場合には上位の銀行から与信を受けて支払うことができる、という2つが重要になる。垂直的な組織は実際に多くの場合に存在し理解は容易なので、以下では水平的な組織を中心に説明する

①の銀行間取引については、水平的な銀行間組織と言っても全ての銀行が対等に他のあらゆる銀行の口座に預金を持つ必要はない。互いに相手の口座を持たない銀行間の取引を第3の銀行が媒介することを通じて、階層的な銀行システムは自生的に発生するが、階層の頂点に立つ銀行が複数あれば水平的な銀行間組織である。限られた数の上位銀行が手形交換所などで互いの債務を請求し合う競争的な関係となる。手形交換所のような共同機関を確立するために、複数の上位銀行が結託し、共同機関への加盟資格で互いの健全性を審査しあったり、ときには共同の債務証券を発行したりすることもありうる。この結託が進めば「銀行の銀行」となり垂直的な銀行間組織に近づく。しかしだからと言って必ず垂直的になるわけではなく、理論的には垂直的と水平的の二つの可能性が残る。(階層的な銀行システムと「フリーバンキング」との関係は岩田[2013]36-37頁で論じた。

 ②の準備金の不足に対する与信では問題が異なる。平時であれば水平的な組織でも垂直的な組織でも、準備金が不足した銀行は他の銀行からの受信によって準備金を補充することができる。しかし、恐慌のような時には受信が困難になる。その場合でも信認を維持している銀行が「最後の貸し手」として、今は準備金不足だが本来ならば健全な債権を保有する銀行に対して高い利率で与信をすることも可能である。しかしこうした危機に際しては、相互に競争的な水平的組織には問題があり、一時的に結託して垂直化を強めることになる。だからといって銀行間組織は必ず垂直化するというわけではない。ここで競争とは、銀行業資本は自身の債務を貨幣として流通させ、そのことで可能となる与信による利子から利潤を得るので、上位の銀行の間ではより多くの銀行に準備を置かせる競争が生じる。

さらにさまざまな考察が必要だがそれは今後の個別研究に譲り、ここでは開口部の連鎖を取り上げる。

たとえば仮に、モード1とモード2に分けると、複数の開口部が次のように連携するのが自然に思われる。

 

貨幣

銀行間組織

景気循環

モード1

物品貨幣

水平的

激発性の恐慌

モード2

信用貨幣

垂直的

穏やかな景気後退



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