田中隆之著『金融政策の大転換』について
田中隆之著『金融政策の大転換』の1~5章について、大学院ゼミでの報告と議論の内容。
以下はレジュメをさらに要約したもの。同書の要約ではなく、私の意見の部分もある。
今後、研究会で取り上げるので、そのための準備。
「超過準備保有型金融政策」への転換
・90年代以降、金融危機以前の「短期金利誘導型金融政策」から、その後の「超過準備保有型金融政策」への変化。このことで、これまでの常識とは異なるいろいろな現象が生じる。
・公開市場の操作よりも、中銀の貸出金利と預金金利でコール金利の上限と下限を付ける。金利のつかない預金保有者もいるので技術的な困難もある。ただし逆に言えばリバースレポなどで技術的に解決可能
・金利引き上げでは中銀の利払いが増えたり、保有資産の公正価値(時価)が減ったりするので中銀が赤字になる可能性がある。この本ではその可能性は回避できるようにも書いてあるが、その点には疑問が残る。
FRBの赤字は以前の記事参照。日銀は利上げしていないので剰余金は黒字を増やしている。レジュメの最後のページのグラフ参照。
「非伝統的金融政策」
・「非伝統的金融政策」は1.大量資金供給、2.大量資産購入、3.フォワードガイダンス、4.貸出誘導資金供給、5.マイナス金利政策 の5つ。そのうち、2000年代の日銀の経験から大量資金供給は重視されず、大規模資産購入が重要に。大規模資産購入では、購入資産のリスク管理に中銀がいろいろと気を使ってきたことが分かる。
3,4について「通説」への批判がある。
・フォワードガイダンスについて、通常の中銀がするのは将来の金融政策(この本ではFG1)だが、通常のマクロ経済学では期待インフレ率(同、FG2)や期待成長率(同、FG2’)である。この本ではFG1とそれ以外の区別を強調し、たぶん、FG1の方を重視している。
・マイナス金利はポートフォリオリバランスではなく、イールドカーブの始点を下げて、イールドカーブ全体を下げる。
・「非伝統的金政策」は、「短期金利誘導型金融政策」の常識ではゼロ金利以降にやむを得ず出される手段のようだが、「超過準備保有型金融政策」では普通に用いられるものもあるだろう。つまりプラス金利局面に転換しても「超過準備保有」状態は変わらない(変わることができない)ので「非伝統的金政策」は継続しうる。もう「非伝統的」ではなく、金融政策の発達した形かもしれない。
財政ファイナンスの問題
・財政ファイナンスの問題。中銀が一時的に大量に国際を買って政府の支出超過をファイナンスできることは重要。問題は、金利を引き上げるべき局面において、政府の利払い負担の増加を懸念して、引き上げができなくなってしまうこと。これがフィスカルドミナンス。単に財政赤字や中銀の国債購入額の問題ではなく、景気循環局面や金融政策の観点から論じていることに特徴。
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