変容論的アプローチによる銀行間関係の基礎概念
銀行間組織は水平的組織と垂直的組織がありうるといわれる。ここで想定されるのは垂直的組織とは銀行の銀行としての中央銀行が存在する場合であり、水平的組織は中央銀行が存在しない場合である。
原理論の理論史的展開から
もともとは中央銀行の存在は前提として原理論は組み立てられていたが、ある時期から原理的には中央銀行は必然ではないといわれるようになった。その経緯について詳しくないが、1970年代のインフレーションの中で、1970年代後半から1980年代にかけてのフリーバンキングの理論と研究の発展が影響したのかもしれない。そうした研究にはハイエクのDenationalisation of Money, 1976、Lawrence H. WhiteのFree Banking in Britain: Theory, Experience, and Debate, 1800–1845などがある。岩田2013『世界資本主義の景気循環』でも考察した。
変容論から
小幡『経済原論』でも銀行間の関係が開口部となって水平的組織と垂直的組織に分岐、つまり変容するように見える。変容とは歴史的変化のことではなく、原理的に抽象的な存在から、より具体的には複数の形に分岐することを変容という。分岐点を開口部という。詳しくは岩田2022『「変容論的アプローチ」の適用』参照。
しかし、変容論的アプローチには注意が必要だ。①「基礎概念として互いに重複しない複数の要素が具体的な存在を構成する」という意味と、「具体的に存在しうる存在が複数」という意味である。変容論的アプローチの初期にはこの違いが明確でないと思う。その原因は、このアプローチの始まりが貨幣にあり、その変容である物品貨幣と不換信用貨幣は①のレベルと②のレベルが完全に分離しているからだ。しかし、それ以外の開口部はそうではなく、①のレベルでは複数の要素が互いに重複しないが、これらの要素が集まって②のレベルでの相違を生み出す。つまり②のレベルでは背反ではない。正しい意味での「変容」は①のレベルだけである。この点はおそらく『マルクス経済学の現代的スタンダードを語る:学術フォーラム報告書』2022年、で初めて言及されたと思う。特に89頁に「光の三原色」の比喩で説明されている。岩田2022『「変容論的アプローチ」の適用』では、②のレベルで銀行間組織を考察しているので、誤りである。
水平的組織と垂直的組織
したがって、銀行間の関係では、①のレベルでの要素の理論的な析出、②のレベルでは現実に存在しうる組織の分類となる。宇野学派の理論研究では、②のレベルに終始している。そのレベルでの議論に難点があることは、具体的に言えば完全に水平的組織な組織も完全に垂直的な組織もあり得ず、現実は常に両者の混同であり、理論的に不鮮明となることである。たとえば現在の日本は中央銀行があるので垂直的組織といえそうだが、銀行間での支払と受取を相殺し合う全銀システムは水平的組織である。また準備金を互いに貸借し合うインターバンク市場も、貸借し合う関係それ自体は水平的である。これらの水平的組織には中銀の預金を用いるという点で水平的というかもしれないが、中銀は、㋐預金を決済手段として提供するだけでなく、㋑中銀による与信や市場オペなど金融調整をする。この㋐と㋑は同じものではない。この点は「組織化」の基準を「事前的対処」と「事後的処理」に置くと明瞭になる。
事前的対処と事後的処理
『これからの経済原論』では、不確定な流通過程に対処する従来の「市場機構」が次のように分類されている。(ただしこの本そのものではこの体系は明確ではない)
不確定な龍家庭への対処の体系
産業資本、商業資本、銀行業資本の諸関係
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産業資本 |
銀行業資本 |
商業資本 |
産業資本 |
⑴産業組織 |
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銀行業資本 |
⑵ |
⑶銀行業組織 |
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商業資本 |
⑷ |
⑸ |
⑹商業組織 |
ⓑについては2024年、経済理論学会報告Iwata,2024, The Role of Commodity Value in Inconvertible CreditMoney A Contemporary Unoist Perspectiveの4.4
Reserves in the Inter-Capital Organization で論じた。(本ブログの過去の記事にもある)
簡単には次のように図式化できる。
水平的要素 |
垂直的要素 |
多数が集合 |
あらかじめ約束 |
事後的処理 |
事前的対処 |
取引所、全銀システム |
クレジットライン、最後の貸し手、中銀の日々の金融調整 |
詳しく言えば以下のように順番に説明できる。
まず、あらかじめ「組織」を前提とせず、個別資本間の関係でとらえる。
次に、組織化された取引を分類すると、
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