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注目

FRB(アメリカ連邦準備制度)の赤字(2025Q1まで)

以前「 FRB(アメリカ連邦準備制度)の赤字 」について 2025Q2 まで更新されたので、グラフを延長する。データ、出所などの説明は以前の記事を参照。 FRBの利息収入( 青い破線 )は2022からほぼ同水準で変動しているが、利息費用( 緑二重線 )が2023Q3から徐々に減少している。それ以外に債権(国債など)と債務(当座預金)の額を考慮する必要があるが、ここでは省略している。財務省への送金前の純所得( 赤い線 )の赤字はかなり縮小してきた。2025Q2も前期比べてわずかだか赤字は縮小し、銀行業資本として正常な状態に戻りつつあるといえる。 なお、用語の対応は、 総利息収入Total interest income、 総利息費用 Total interest expense 財務省への送金前の純所得 Reserve Bank and consolidated variable interest entities net loss before providing remittances to the Treasury 損失の場合は、 Reserve Bank and consolidated variable interest entity net loss before providing remittances to the Treasury   準備預金への利子率 Interest rate on reserve balances (IORB rate)

江原慶「資本による貨幣の変容」の学習用ガイド:続き

 

 


前回の貸借対照表での表現の訂正(大学院(シニア院生)ゼミでの議論の続き)

この件についての前回の記事はC 下方放散した後のレートで一貫して表示したものだった。 しかし この論文では、3者間の交換比率はそのレートだが、11頁右第3段落によると、Bが自身の純資産の評価をするのはは下方放散前のCによる評価レートとAによる評価レートであることを私が忘れていた。そのため 前回の貸借対照表の図を次のように描き変える必要がある。


ここでBが純資産が増えているが、Cの純資産は減少している。この問題は注18最終段落の、Cが上衣を追加していることを顧慮できていないことと関連する。考慮するとこの注の最後の行列に関する式の最初の行列の式に問題がある。もともとは

となっているが、Cが上衣1を交換に追加しているので

とすべきだろう。そうすると、増殖率を求める式は、
となる。ただし、「*」は通常の行列の積ではなく、項目ごとの積を示す。

そうするとrb = 1rc= 1/3 になる。Bの増殖率が100%であるのは論文の通り。Cについては、上の貸借対照表でもCは下方放散することで、純資産が23になっており、たしかに増殖率は-1/3だとわかる。

 Bが自分の資産を評価するにはACによるレートを使うというルールになっているようだが、ここで仮にB自身のレートにすると、

純資産の増加分が消滅する。要するにBの価値増殖は、Cによる価格の下方放散に加えて、自分以外のAとCによるレートで評価するというルールによるものだった。


Cが債務証書を発行するか?

ここで院生が、Cが債権を発効することもあるのではないか、という質問をした。ありそうな気もしたが、よく考えてみうるとできないことがわかる。

まずBSで順番に表現してみる。

この段階ですでに下方放散の状態になっている。3者のレートの不整合と下方放散がちょうど合致しているためにこういう現象になる。

ここでCBに茶を引き渡す債務S’と、Bから上衣を受け取る債権Sを交換する。次の形になる。

続いて、Aに対して上衣2を引き渡す債務を発行するならば次のようになる。

CABによるレートを受け止めるというルールであれば、Cの下方放散の前と後では変化がないので、価値増殖も減少もないはずだ。実際に行列で計算すると、

 計算すると、rb = rb= rc= 0 になる。

しかし、Cが積極的に債務証書を発行することはできない。なぜなら、この場合、Bは利得も、商品をすぐに欲しいという逼迫性もないので、債権・債務関係の形成に応じる理由がない。

他方、この論文ではBが価値増殖をすることが可能で、かつ、Cに切迫性があるのでBCが債権・債務関係に応じることに妥当性がある。


債務の無期化について

債務の健全性を債権者に理解させて、履行請求を遅らせて債務の無期化を図る、という書いてあるように見える。「債務の無期化」の概念の問題はすでにこのブログの記事、学術フォーラムの貨幣についての報告へのコメントで書いた。要するに物品貨幣の連続的な行きつく先に(不換)信用貨幣を置くものであり、物品貨幣に対する兌換信用貨幣の特殊形として不換信用貨幣を論じる形になっている。これは変容論的アプローチが超えようとしたものを超えないことにした、と言っているようだ。

 

それ以外、全体を通じての感想

 宇野以来、相対的価値形態のある商品は、自分所有する商品の中の一部を取り出すという想定だった。しかしこの論文では、他に商品がない、という想定になっている。また、評価の仕方が自分以外のレートを採用する。

こうした前提の拡張が恣意的に見える。商品と商品所有者の概念に検討を加えて演繹的に展開しているのではなく、自分の言いたいことが先にあってそれに合わせて前提を増やしているように見える。また、単純な数値例で例解、イラストレーションを書くことで論理を立てているように見えるので、その数値例を別の見方をすれば別の説明になってしまうこともある

最近の原理論の研究は自分の言いたいことに合わせて前提を拡張しているようなものが多いようなのでそれでいいのかもしれないが、あまり良い傾向には思えない。だが、原理論の専門家には自分たちの方法があるだろうから、さしあたりは傍観するしかない。


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