マルクス『資本論』の価値形態論における「排除」の用語について
マルクス『資本論』の価値形態論では、多数の商品の中から1つの商品が貨幣として選び出される説明のの中で「排除」という表現が使われる。これは貨幣とその他の商品との違いを明確にするために重要な概念となる。ただし「排除」という言葉は専門用語ではなく普通の用語なのでマルクスの『資本論』においてもさまざまな意味で使われる。
価値形態論の研究論文でよく使われる排除の用法、あるいは意味は主に以下の二つ。
ア)多数の商品から成る商品世界から、あるいは、通常の商品の位置である相対的価値形態から、一商品のみが一般的等価として排除される。
イ)相対的価値形態と等価形態とは互いに排除し合う関係。
しかし他にも「排除」の用法はある。そこで、『資本論』の原書Werke版で動詞のAusschließ*、その過去分詞のausgeschlossen、名詞のAusschluß*で検索して価値形態論に関係のある語を選ぶと、第1章第3節「価値形態または交換価値」、第2章「交換過程」の範囲(ページではS.62-S.108)に以下の用法がある。順番に見ると、
①S.63:相対的価値形態と等価形態が互いに排除。簡単な価値形態で相対的価値形態と等価形態との関係。上記のイ)に当たる。
②S.78:多数の等価形態同士が互いに排除。展開された価値形態で、等価形態に置かれた多数の商品同士の関係。
③S.81、83(2か所)、101:相対的価値形態から一般的等価形態へ排除。これが最も多く、上記のア)に当たる。
④S.82:展開された価値形態で、等価形態にある多数の商品のうち、一つを除いてすべての商品が一般的等価形態から排除される。
①~④の論理的な関係は、まず①が価値形態論の展開の出発点となる基礎である。簡単な価値形態で、相対的価値形態へと等価形態との非対称性を論じる。
次に②は、展開された価値形態において、等価形態に多数の商品が並ぶことの困難を論じている。つまり、等価形態に並んだ多数の商品が互いに排除し合い、統一的な価値表現にならないことだ。
その次に論述の順序では③が来るが、論理展開の順序では④が先だ。つまり、③は結果として商品集合から貨幣となる商品が排除された関係を記述する。これは価値形態論が完全に展開し終わったあとの結果を示している。
他方、④は「相対的価値形態と等価形態との発展関係」という項にあることからわかるように、展開された価値形態から一般的価値形態へと進む媒介として論じられている。つまり本文を引用すると、「形態Ⅲが、ついに商品世界に一般的社会的な相対的価値形態与えるが、それは、ただ1つの例外をのぞいて、商品世界に属するすべての商品が一般的等価形態から排除されているから」(S.82) この部分は、形態Ⅱ(展開された価値形態)から形態Ⅲ(一般的価値形態)への展開を論じている。
こうして①~④の論理展開は、①が簡単な価値形態における基礎、②が展開された価値形態における矛盾、④が次の価値形態への媒介、③が価値形態の展開の帰結となる。
重要なことは、③のように、相対的価値形態にある多数の商品集合から、或る一つの商品が排除されて一般的等価物や貨幣になるのではなく、等価形態に置かれた多数の商品の間で互いに排除し合い、そのうちの一つを除いてすべてが等価形態から排除されて相対的価値形態の側へと移行し、結果として、一つだけ残った商品が一般的等価物、そして貨幣になるということである。
図解すると、
②は、
③は過程として、
この過程の結果として、以下の④のように見える。
以前の記事「新・orの関係の商品集積体から信用貨幣を導出する新しい価値形態論」その1、その2では、③の意味で「排除」の語を使った。今回の記事は「新・orの関係の商品集積体から信用貨幣を導出する新しい価値形態論」の補注になる。
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