アメリカ株式市場や金融化についての研究会での議論

 


研究会での議論

 小林陽介氏の新しい論文「グローバル金融危機後の金融化の進展:米国株式市場の検討を中心に」の株式市場に関する部分の議論。

ここでは主に金融化について。

 金融化とは小林氏の紹介によると一般には「国内経済に対しても、国際経済に対しても、金融市場、金融業者、および金融企業の役割や、一般人の金融利益を目指す動機付けが段々と増していく過程)」というエプシュタイン(Epstein[2005]p.3の定義があげられるものの、「利潤が生産的な活動よりもむしろ金融的チャネルを通じて生み出されるような蓄積の傾向)」(Krippner[2011]: p.4)、「金融市場、金融機関、金融エリートが経済政策や経済的な成果への影響を強めていくプロセス)」(Palley[2013]: p.8)など、有力な定義が併存する状況にある、とということである。

Epstein, G.[2005], Introduction: Financialization and the World Economy, in G.Epstein,ed., Financialization and the World Economy, Edward Elgar.

Krippner, G.[2011], Capitalizing on Crisis: The Political Origins of the Rise Finance, Harvard University Press.

Palley, T. I.[2013], Financialization: The Economics of Finance Capital Domination, Palgrave Macmillan.

 金融化の特徴として一般的に、資本の投下先が実体経済から乖離して金融部門に移る、ということが議論される。しかし、小林氏がとくに強調するのは企業の株式保有の目的は配当や金利ではなく、企業の資本移動であることを強調する。利潤率の低いところから高いところに移動する手段である。経済原論では株式証券の二つの側面として、利潤の一部を配当として受け取る利潤証券の面と、資本の意思決定に関与する支配証券の面がある(たとえば小幡『経済原論』247頁)。これに即していえば、利潤証券ではなく、支配証券の面を強調するということ。

以下、研究会でのいくつかの論点をいかに羅列すると、

◆GMは金融子会社GMACを持っていたが、これは産業資本の販売による利潤を、消費者信用の与信の利子として長期にわたって得るというもので、金融それ自身が自立したわけではない。「利潤の利子化」ともいえるが、産業資本の利潤がなくなったわけではない。利子の根拠に産業資本の利潤があることの方が重要にみえる。ただしこれについては、本社の販売とは関係ない金融業務が増えたのでないか、(母屋を取られた)という意見もあった。

 ローンの債権が証券化されると金融の債権債務関係が多層化する。銀行与信だけでは一重だが、債権が証券化されれば一つの元債務から何重にも金融資産(負債)が増える。そのように金融がアンバンドリングされれば総額で残高が増えるか、それは金融化といえるのか? という疑問もあった。

 おそらく、媒介が増えること自体が金融化の特徴だろう。

◆金融化は第2次世界大戦以降の特徴、という意見もあった。つまり、金融化は主に1980年代以降の特徴といわれるが、福祉国家体制の中で年金の金融資産が増加していた。福祉の市場化によって、個人が金融市場で意思決定をし、行動する必要が生じた。これが金融化。しかしこの意見には、福祉の個人責任という市場化がなくても、年金基金が市場で運用することには変わりがないという批判もあった。この議論は年金の確定拠出化や、年金基金の行動などをみれば比較的、容易に見通しが立ちそうな気がする。

◆ゲームストップの株価が個人投資者によって急変動した問題について。遊びでやっているだけでは? という質問があった。これについてはヘッジファンドを打ち負かすほどの大きさになっていたこと、そもそも年金が確定拠出になっているので株式市場への着目とそこでの行動が容易になっているという背景が重要ではないか、という意見。また、株式市場の動向に老後の生活を賭けなければならないほどの福祉の貧困さ、という意見もあった。


「金融化」をめぐる状況について現状分析の面での補足

 小林氏の報告では、金融化が進んでいることを示す指標として、金融資産残高のGDPに対する比率が1980年代以降、増加していることという図が挙げられた。これはよく使われるやり方で、例えば再現すると次のようになる。なお、分母のGDPの変化が影響するかもしれない、という話があったのでGDPはHPフィルターのトレンドを用いる(実際にはほとんど結果は変わらない)。

データは、

GDP はセントルイス連銀FRED https://fred.stlouisfed.org/series/GDPA

金融資産残高は

 FRB, Financial Accounts of the United States.  の

L.100 Domestic Nonfinancial Sectors

L.108 Domestic Financial Sectors

 
 論文では1980年以降の低金利にもふれている。再現すると以下の通り。

データはFRBH.15 Selected Interest Rates  https://www.federalreserve.gov/releases/h15/

グレーはNBERによる不況判断 https://www.nber.org/research/data/us-business-cycle-expansions-and-contractions

 金利が下がれば金融資産の価格は上昇する。そのこと自体は「金融化」とは言えない。

 ここで仮に、金融資産から得られるフローの収益を、【金融資産残高×長期金利としてみる。これの対GDP比をみる。そうするとフロー対フローの関係となり、金融資産残価÷GDPというストック対フローよりも整合的と考えられそうだ。


 長期金利は月次データを年間平均に換算。

 図1の金融資産残高/GDP1980年以降、2~3倍になっているが、図2の国債利回りがおおよそ10分の1くらいになっているので、図3は利回りの動きに規定されていることがわかる。上の図1とは全く逆の傾向になる。

 国債の利回りではなく別の利率を使う方法もあるだろうが、それほど大きくは変わらないのではないか。

フローのデータについては、小倉将志郎「米国非金融企業の金融化と金融資産構成」(駒沢大学経済学論集 49(1・2), 73-89, 2018-01の分析がある。この論文の77頁の図表2は以下のようになっている。


データのウェブのページはCorporation Complete Report Archive と、Historical Data Tables 

 ポートフォリオ所得は増えてはいるが、事業収入全体に占める比率はかなり低い。

 元データにあたってこのグラフを再現しようと思ったが、これ以上は、時間がかかりそうなのでこのあたりで止める。この先は上記の論文を読んでいただきたい。論文ではこのグラフだけでは終わらないという分析が続いていく。(以前、信用理論研究学会の関東部会でのこの論文に関する小倉氏の報告も聞いた)

終わりに

今回の研究会(小林氏の報告)を聞いて、現状分析のやり方の工夫と、金融化の概念との整合性について、今後もかなり研究の発展の可能性がありそうだと思った。

ところで金融化については、以前、書いたことがあるので次の記事に挙げる。












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