「行動論的アプローチ」から「具体的分化プロセス論」へ:「商業機構における多型的展開」に関連して


2023年1月29日に論文「商業機構における多型的展開 : 原理論と段階論からの検討」のリンク先を、公刊された雑誌のPDFに交換。

「行動論的アプローチ」は、個別資本の利潤追求の行動の結果として、商業資本や銀行組織の市場機構が分化、発生するという方法である。もともと川合一郎(川合[1977]「信用論における論理と行動」)が宇野弘蔵の方法を評したものだが、現在では、その後の山口重克が強調した方法として理解されることが多い。「行動論的アプローチ」と対比される「行く先論アプローチ」では、社会全体での効率化によってその市場機構の合理性が説明される。(この対比は最近の私の紀要論文「『変容論的アプローチ』の適用:段階論と現代資本主義論のための原理論の「開口部」についての体系的な考察 」で説明した)

 とはいえ、山口は、たとえば商業資本の分化論について、産業資本の販売部が独立して商業資本になるといった転化のプロセスを具体的に問題にするものではない、と説明した(山口[1998]『商業資本論の諸問題』49)。その方法は、現在でも踏襲されている。たとえばさくら原論研究会著『これからの経済原論』での商業資本の発生の説明は、

①生産過程と流通過程を共に担う原初的な産業資本は、生産の継続性を維持するためには流通過程の不確定性が制約になり、逆に資本移動のためには固定資本のある生産過程が制約になる。そこで原初的な産業資本には、流通過程を他の資本に代位させる産業資本と、生産過程を放棄して流通過程に特化する商業資本という分化の契機がある。

②続いて生産を担わない商業資本も、産業資本の流通過程の負担を代位して安く買い取ることで利潤を得る根拠となる。

 以上のように、商業資本を例にとると、行動論的アプローチは、原初的な産業資本が分化する契機と、新たに分化した商業資本の利潤の根拠を説明することである。原初的な産業資本から商業資本へと中間的な形態を踏まえて具体的に分化することを説明するわけではない。

 しかし、2020年の私の論文「商業機構における多型的展開:原理論と段階論からの検討」の一部(Ⅲ.1.2 具体的分化プロセス論による市場機構論)では、中間的な形態を踏まえた具体的に分化する方法で説明してみた。これは、商業機構の段階論的な説明では、産業資本と商業資本の相互浸透を踏まえて論じる必要があるからだ。また、原理的にも、商業資本の分化は必ずしも完全に分化するわけではないので、中間的な形態を説明できれば「分析基準としての原理論」には適切になろう。また、銀行信用と銀行業資本は、産業資本間の商業信用を基礎に説くのだから、商業資本も、「産業資本間の販売代位」から説くのが論理的に整合的だろう。こうした中間形態を含めた方法を「具体的分化プロセス論」とよんでみた。

 このように山口の行動論的アプローチをさらにすすめて具体的分化プロセス論として論じる方法を、銀行業資本や土地所有の発生などにも適用できるか、今後、検討していく予定である。




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