小幡道昭[2018]「仮想通貨の貨幣性・非貨幣性」の信用貨幣論について
小幡道昭[2018]「仮想通貨の貨幣性・非貨幣性」(第66回経済理論学会大会報告、銀座経済学研究所ウェブサイト)は仮想通貨を論題にしつつもそれ以外に様々なことがらを論じている。その中で価値表現の中で信用貨幣が論じられているところがあるのでその部分を検討する。バージョン変更があったようだが、2021年6月3日に確認したものを利用する。
以下、17頁の図と、17-18頁の「価値物」という項の説明について説明する。
↓小幡道昭[2018]「仮想通貨の貨幣性・非貨幣性」17頁から抜粋
この図の意味がなかなか分からなかった。本文でも難解さは自認されており、そのため「受信のための与信」を「補助線」にして例解もされている。ところがこれが逆によくわからない。「受信のための与信」は小幡『経済原論』227頁にある。ただし、CはXになる。
「受信のための与信」ではAはCに対して与信をし、それで得たCの債務を使ってAがBから受信する、というのが「受信のための与信」だが、この図ではAとCの関係を見るとAがCに対して債務を負う形になっている。つまりAはCに対して債務を負い、さらにBに対しても債務を追う、つまり、Aには与信はなく、二重に債務を負っている。
しかし、この間、交換価値形態論における間接交換から考えれば理解可能になることに気づいた。先に問題点を言うと、一つは「補助線」は、「受信のための与信」ではなく、「受信と与信の媒体」である。もう1つは簡単な価値形態と間接交換では、価値表現の主体が入れ替わるため、相対的価値形態と等価形態が逆転する。
小幡『原論』の「間接交換」で間接交換の手段が現物ではなく引渡債務が使われると考えれば容易に理解できる。(間接交換については小幡『原論』38、292頁参照)
説明
まず、間接交換の概念を使わずに、17頁の図2の「信用貨幣型」は簡単に説明すると次のようになる。
まず、主体AがWAの商品体を引き渡す債務と引き換えに主体CからWCの商品体(WC・körperと表記)を受け取る債権証書を得る。そのWC債権の価値の大きさはWAの価値(WA・wertと表記)に相当する。こうしてWAの価値を持つWC商品体という「商品融合」(WA・wert⊕WC・körperと表記)が生じる。次に主体Bが、WBの価値の大きさをWCの債権の量で表現する。
間接交換の概念を使うと、リンネルがWA(所有者はA)、上衣WB(所有者はB)、茶WC(茶の所有者または引渡債権証書の発行者はC)と置く。
まず、Aが直接に交換を求めると、簡単な価値形態として以下の式になる。ただし以下では数量関係の表示は省略する。
WA = WB ……㋐
しかしBが交換を欲しなければ交換は実現しない。次に、間接交換の手段としてAは茶WCを利用しようとする。その際、AはCにリンネルWAを引き渡す債務と引き換えに、WCを受け取るCの債務証書を得る(Aにとっては債権)。その後、上衣WBの所有者Bが価値表現の主体となり、自身の商品である上衣WBを相対的価値形態に置き、等価形態にはWCを置く。ただしその価値の大きさはもともとWAによって決まっている。
この関係を、上に述べた間接交換における2つの価値表現と対比すると、WBとWCの関係は以下のようになる。
WB = WCの引渡債務(WA・wert⊕WC・körper) ……㋑
これは以前の記事の間接交換で論じた2つ目の価値表現の式②に相当する。1つ目の価値表現①に相当する式はWAとWCの「商品融合」の中に埋もれているが、以下のようになる。
WA = WCの引渡債務 ……㋒
WCはいずれの価値表現でも等価形態に置かれるので、WC自身の価値の大きさは表現されない。
こうしてみると、補助線としての「受信のための与信」は間違いではないか。AがCに対して与信するのではなく、CがAに対して与信をする。そしてAはWCの債務証書を得る。このWCという債務をBが欲する。
結論
A:補助線は「受信のための与信」ではなく、Cによる「受信と与信の媒介」である。
B:間接交換で論じたように、ここには2つの価値表現がある。一つ目は「商品融合」の中に埋もれている。
C:簡単な価値形態のときと比べると、間接交換の2番目の価値表現では価値表現の主体が入れ替わるため、左右(相対的価値形態と等価形態)が逆転する。㋐と㋑を見比べれば明瞭。
ついでに言うと、17頁の図の「物品貨幣型」は相対的価値形態と等価形態は逆転することなく、物品貨幣が導出される。しかし、「信用貨幣型」のように間接交換があると左右が逆転する。そのため17頁の図の上(物品貨幣型)ではWAの所有者がWBに対して価値表現し、下(信用貨幣型)は左右が逆転してWBが、WAとWCの「商品融合」に対して価値表現する。
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